Vanity of vanities

Kei Koba in CER, Kyoto University, Japan

明日生態研セミナーです!!

第287回 2017年6月16日(金)14:00〜17:00

小林和也(京都大学フィールド科学教育研究センター)

身勝手な遺伝子が築く社会と群集
Selfish genes establish complex community

かつてダーウィンによって自然選択説が提唱された際、立ちはだかった壁の一つにアリやハチなどの社会性昆虫がいた。ダーウィンの自然選択は、より多く子供を残すような性質が集団中に広まっていくと予測したが、アリやハチなどの社会性昆虫では、巣内のごく少数の個体(女王アリや女王バチ)だけが繁殖し、その他の多くの個体(働きアリや働きバチ)は子供を産まない。なぜこのような子供を産まないという性質がアリやハチの仲間に広くみられるのだろうか? この疑問に対し、1964年にW.D.ハミルトンは、働きアリは自分の親の繁殖を助け、同じ遺伝子を共有する兄弟姉妹を増やすことで、次世代に自分の遺伝子をより多く残していると考えた。即ち、自分の直接の子供の数ではなく、遺伝子の数を増やす性質が集団中に広まっていく。このアイデアは血縁選択説と呼ばれ、特に社会性のアリやハチが生産する子供の性比と血縁選択の理論予測が良く合致したことで、不妊の進化を説明する仮説として注目されてきた。しかし、近年、血縁選択説の普遍性に疑問が投げかけられている。その論拠の一つとして、アリやハチと同じく真社会のシロアリでは既存の性比理論による検証が不可能だったことが挙げられ、普遍性に疑義が呈されている。

セミナーでは我々の研究グループが行った理論的拡張とその実証をご紹介したい。そこでは、血縁選択説をアリやハチ以外の生物でも検証する方法を確立し、実際にシロアリの社会に血縁選択が働いていること示した。この結果は、シロアリにおいても、働きアリは遺伝子の数を最大化するように振る舞っていることを示している。

また、現在私が進めている研究として、この「全ての個体は自らの遺伝子数を最大化する」という進化の原則が種の壁を越えてその地域の生物群集に与える影響を示し、遺伝子レベルの最適化が自然界に及ぼしている影響について議論したい。

庄田慎矢(奈良文化財研究所/ヨーク大学)

土器に残された脂質からせまる縄文海進期の日本海沿岸の食
Organic residue analysis for the reconstructing of cuisine in the coastal area of the Japan Sea during the Holocene sea level rise

 私達が行っている先史時代の研究において、ヒトがどのような自然資源をどのように加工し食料として利用していたのかは、極めて重要な検討課題である。近年、イギリスを中心とした海外では、遺跡から頻繁に出土する土器から脂質を抽出し、その化学的特性を把握することにより、どのような飲食物が調理加工されたのかを復元しようとする研究が盛んに行われている。日本でも、演者らの研究により、福井県鳥浜貝塚の縄文草創期から前期(14k-5k BP)の土器が、水産物を主たる対象として用いられていたことが示されている。本発表では、朝鮮半島にも土器が登場する完新世海水面上昇期(8k-6k BP)の環日本海沿岸地域の複数の遺跡において、上述と同様の傾向が見られるのか、あるいはその傾向が鳥浜貝塚に特有のものであるのかを検討する。対象とするのは、福井県鳥浜貝塚秋田県菖蒲崎貝塚佐賀県東名貝塚蔚山市細竹貝塚、蔚珍郡竹辺里遺跡の5遺跡から得られた土器胎土粉末試料143点、土器付着炭化物試料78点である。これらの試料について、GC-MSによる生物指標の同定やフィタン酸におけるSRRジアステレオマー比率の測定、GC-c-IRMSによる個別脂肪酸の安定炭素同位体比の測定を行った。分析の結果、全ての遺跡において、水生生物に特有の生物指標や、フィタン酸における高いSRRジアステレオマー比率、海産物に対応する値の個別脂質安定炭素同位体比が確認された。今回の分析対象とした遺跡においては、共通して水産物を強く指向した調理内容が復元され、この傾向が鳥浜貝塚だけに特殊なものではないことが明らかになった。日本海沿岸地域にみられたこうした共通性は、同じ時期にユーラシア大陸に暮らしていた人々のそれとは大きく異なっていることから、先史時代における資源利用や食文化における大きな地域的特色を指摘できる。

むっちゃたのしみ

本拠地はこちら http://www.ecology.kyoto-u.ac.jp/~keikoba/