Vanity of vanities

Kei Koba in CER, Kyoto University, Japan

外部観測:「旅をする理由」鳥羽和久著

大学院生の頃、「内部観測」という考え方が整理されて出てきて、頭を抱えた記憶がある。あたふたしたあと「どうせ観測なんてできっこないよ!」と吹っ切って就職活動を始めたのだった。

いま、ようやく回り回って、外部から見つめる観測というものを、本職である生態系に関して、または組織に関して、そして自分に対して考えるようになっている。外部性があるからこそ見えるものがある。外部からのノイズでわかることがある。「kick the ecosystem and see what can happen」というのはアラスカでの合い言葉だったけれど、それをようやく恣意的に、積極的に、自分に対してやってみようと思えるようになったのだった。

 

旅はその意味で最適だ。旅に出たい。18になってはじめての京都の夜、夜にコンビニを目指してうっかり恵文社に吸い込まれてから、小さな旅はずっと続いているはずだ。そんなことを考えながら、旅行と旅の違いを考えながら、日々、なんとか息継ぎをしている。

旅行記は魔力を持っている。隙を見せると、いまでも本当に高校生の頃のようにハンドルを右に回して海に行ったまま帰ってこなくなってしまうだろうと毎日ハンドルを握りながら思っている。この道本当に左でいいのか?右に行ったら岐阜まで行けるぜ?と。旅に依存している自分の甘さもかみしめながら、鳥羽さんの「旅をする理由」をめくっていた。

 

気に入った部分の一部を引用する。それだけにする。野暮なことはしない。言葉が一つ一つ湿り気を、薫りを持っていて、自分も旅に連れて行ってもらえたな、とおもう。何層にも複雑に絡み合いながら、自分自身を外から少しみることができたかな、とおもう。

 

彼らは「消費させられている」という話をした場合、何の抵抗も示さない。彼らはそのことをすでに身をもって知っている、そのような印象を受けることが多い。でもだからと言って日本の若者たちが今後、西洋の人たちと同じリアクションをとるとは思わない。彼らはすでに「自分が何がやりたいかなんて本当はわかっていない」ということを半ば無意識に引き受けた上で、それぞれのキャラを演じ、内向きのコミュニケーションの円環の中で自活している。
鳥羽和久.旅をする理由(カラー版)(pp.45-46).kitsutsukishaterakoyanetfukuoka.Kindle版.

 

同じように、あなたが日本人であることも、あなたが日本人である人と、そうでない人との間に境界をつくったから、日本人としてのあなたの自己意識が生まれたのです。そういう意味では、その境界自体が日本人の正体であり、あなたの自己意識の正体です。

鳥羽和久.旅をする理由(カラー版)(p.46).kitsutsukishaterakoyanetfukuoka.Kindle版. 

 

私たちは「がんばろう」という高貴な叫び声をあげ、人間の美しさを垣間見る美談に酔っているときには、悲劇の本質を見ずに済むのです。

鳥羽和久.旅をする理由(カラー版)(p.62).kitsutsukishaterakoyanetfukuoka.Kindle版. 

 

抑圧された「泣く」ことの残滓は、心の深淵に沈殿してゆき、時間をかけてゆっくりと大きな錘になって、確実に人の心を蝕むのです。

鳥羽和久.旅をする理由(カラー版)(p.66).kitsutsukishaterakoyanetfukuoka.Kindle版. 

 

日本で路上生活者の問題を語るときに余所余所しさがつきまとうのは、彼らがはじめから私たちの仲間ではないからだ。

鳥羽和久.旅をする理由(カラー版)(pp.78-79).kitsutsukishaterakoyanetfukuoka.Kindle版.

 

いまの私たちに必要なのは、ある集団(国家や団体、組織)に対し、正義や悪といったレッテルを貼ること自体を停止することではないでしょうか。また、その集団が持っているとされるコンテクスト自体を疑うことではないでしょうか。
(中略)
逆に私たちが徹底的に問題の個別化を図り、一つ一つの事例について感情的・情緒的ではない精細な議論を重ねることだけが、それらの集団の増長を根本から妨げる手段になりえるのではないでしょうか。

鳥羽和久.旅をする理由(カラー版)(p.84-8).kitsutsukishaterakoyanetfukuoka.Kindle版.

 

人間というのはそもそもが「引き裂かれた」存在であって、善や悪といった一つの色に染め上げられることができないものであること、だからこそ、私の目の前にいる一人の声がかけがえのないものであるという厳粛な事実です。

鳥羽和久.旅をする理由(カラー版)(p.134).kitsutsukishaterakoyanetfukuoka.Kindle版.

 

だから、私たちは歴史の教科書を構成する「眼差し」を知ることで、歴史そのものというよりは、それを構成する要素、つまり現代の私たちについて深く知ることができますし、歴史というものがいかに巧妙な編集物であるかを知ることができるのです。

鳥羽和久.旅をする理由(カラー版)(pp.135-136).kitsutsukishaterakoyanetfukuoka.Kindle版.

 

生まれ育った場所の「歴史」「伝統」「文化」といったものは、生まれながらにゆりかごのように存在する。そういう考えが一つの偏向であるということに、沖縄の果て、西表島に来ると気づかされます。

鳥羽和久.旅をする理由(カラー版)(p.174).kitsutsukishaterakoyanetfukuoka.Kindle版.

 

北欧とかって、すごく寛容なイメージあるじゃない? でもあれは違う。セパレートするためのシステムが巧妙なだけなんだよ。

鳥羽和久.旅をする理由(カラー版)(p.206).kitsutsukishaterakoyanetfukuoka.Kindle版.

 

 

 

 

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