Vanity of vanities

Kei Koba in CER, Kyoto University, Japan

親ガチャの哲学(戸谷洋志 著)

親ガチャの哲学(戸谷洋志 著)を一気に読んだ

 

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特に後半が重みが増してとてもよかった。第5章からが本当によかった。リズムが出てきているような気持ちで読み進めた。あっという間だった。

 

自分の中で大事な言葉として、シモーヌ・ヴェイユの「あなたはどのように苦しいのですか?」というのがあるけれど、特に後半、この言葉が小さくつねにこだましていた。その中で、ヴェイユも出てきていたけれど、ハイデガースピノザロールズ、ローディー、アーレント、最後にはカント、と、この半年くらいずっといろいろな本を読んでいくとぶち当たる概念、概念の提唱者がまた浮かび上がってきて、別のつながりでの浮かび上がりを見ることができて、とても自分の理解が進んだと思う。結局、いま、どんなトピックから物事を考えても、自分としては、多様なつながりをどうかんがえるか、というところに落ち着くのと同じく、結局は今はこのあたりの巨人たちの著作に当たるのがいいのだろうなと思った。とにかく軽く読めるけれど、一日たったら、出てくる様々な重要な言葉、重要な著作に、ちゃんと当たらなきゃだめなのでは?もっときちんと知らねばならないのでは?という刺激をたくさんもらえた本だった。

 

いろいろなキーワード、自己肯定感にしろ、コミュニティーにしろ、自由意志にしろ、ある程度ぐっとこらえて黙って考えてゆくと、素人というか、あまり考える訓練をしていない自分にとっては、すぐに壁に当たってしまう。近年様々な著者からだされている、この本のようなわかりやすく哲学的な考えを誘導してくれる本は、このあたりの、ちょっとちゃんと考えるとしんどくなるところへの手の差し伸べ方が本当に素晴らしくて、哲学や社会学などを志している方々の、なんというか、厚みのようなものをひしひしと感じる。本当に素晴らしいことだと思う。勝手に、埴谷雄高が、池田晶子に「哲学のエッセイを書かなきゃだめだ」みたいなことをいってから、今や、こういう哲学的な思考を、もっと具体的に、哲学的な思考から紡ぎ出されてくる言葉をなんとなしに使いこなせそうな、そんなに気にしてくれる著書がどんどん出ている。なんと素晴らしいのだろう。

 

「親ガチャ」という言葉から自分が連想する、10位はありそうな単純な嫌悪感について、丁寧に先回りして解説がされており、たとえ、それらが「解答」に至らなくても、解答に至るためにどのように立ち止まるべきか(これは「ネガティブ・ケイパビリティ」につながるのだろうと思う)、まで丁寧に、バランスよく書かれている。

 

かみさんから勧められたのだけれど、本当によい本だった。

本拠地はこちら http://www.ecology.kyoto-u.ac.jp/~keikoba/