生態研セミナー
第304回 2019年2月15日(金)14:00~17:00
http://www.ecology.kyoto-u.ac.jp/seminar.html
板井啓明(東京大学大学院理学系研究科)
Ⅰ.琵琶湖湖底のマンガン・ヒ素動態に関する地球化学的研究
Geochemical cycle of manganese and arsenic in Lake Biwa
Ⅱ.水銀安定同位体比の生態学的応用について
Application of mercury stable isotope ratio for the ecological research
(I) 湖水におけるマンガンとヒ素の動態研究は、1世紀以上の歴史があり、琵琶湖でも1980年代後半までに基礎的な知見は網羅されている。しかし、2010年以降の我々の調査から、湖底表層のマンガン・ヒ素の分布が1970年代と比較して変化していると思われることから、堆積物中および間隙水中を対象に、これら元素の化学形態分析による動態解析を進めている。講演ではこれまでの観測結果と課題について紹介する。
(II) 水銀安定同位体比は、大気圏-水圏-生物圏間の水銀動態解析に有効なツールとして、とくに2007年以降世界的に研究が進められてきた。水銀には7つの安定同位体比が存在するが、これら全ての同位体核種の相対比を精密測定すると、質量に依存しない同位体分別 (MIF)が認められる。一部の光化学反応に特異的なMIFは、生態学においてはメチル水銀の摂取深度の指標になることが指摘されている。講演では、北西太平洋のカツオを用いた研究例について紹介する。
山口保彦(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)
微生物による水圏有機窒素の生産と分解:アミノ酸と窒素同位体比を用いた解析
Microbial production and degradation of organic nitrogen in aquatic environments indicated by amino acids and nitrogen isotope analysis
海洋や湖沼などの水圏環境において、溶存態有機窒素(DON)や粒子状有機窒素(PON)など、非生物態の有機窒素の動態は、栄養塩の分布を駆動するなど、物質循環や生態系の中で重要な役割を果たしている。しかし、有機炭素に比べて、有機窒素に関しては研究事例が少なく、生産や分解など動態に関わるプロセスに、より多くの不明点が残されている。本セミナーでは、演者がこれまで取り組んできた、アミノ酸の化合物レベル窒素同位体比や鏡像異性体比を指標として用いた、環境中有機窒素の動態解析手法の開発(微生物培養実験、分析法改良など)と、水圏環境(北太平洋、琵琶湖など)への応用事例を紹介する。特に、水圏のDONやPONの生産と分解のプロセスに、従属栄養微生物が果たす役割やそのメカニズムを議論する。